第11章 萌芽
「ほう?それはまた何故?如何に名手といえど、奉納される筈の舞を容易に舞えるものではないのでは?」
「何か事情があったのだろうが、よくわからない。私がまだ子供の頃のことだから」
…子供の頃。
「幾つくらいのときの話です?」
「十歳のときだな。私が初めて舞った年の、秋のことだ」
初夏に小枯が舞い、秋に茅場が舞った…。
鬼鮫は小枯の顔をまじまじと見、眉間に指先を当てて考え込んだ。
本当に捕物舞を望まれたのか?
ー小枯の時雨舞が人口に膾炙して大名がそれを望んだ可能性は?
茅場が異例に舞うことで覆い隠せるもの。茅場が目晦ましたかったもの。
鬼鮫は深く眉根を寄せた。
茅場。何故そこまで。
小枯が連子窓の方を見て、物思いに耽っている。
子供の頃、舞台で舞ったときのことを、初めて削れたときのことを思っているのか。
隈の浮いた目でもの思わしげな横顔を無防備に晒す小枯に鬼鮫は息が詰まるような感覚を覚えた。
自分には手の届かない過去を思い巡らせるその様。煩わしいこと全て投げ出して山を下り、来し方ではなく行く方を見て欲しい。
私を見て欲しい。
私のいない過去ではなく。
異様な焦燥感に駆られて鬼鮫は拳を握りしめた。
「…鬼鮫もいたら良かったな」
不意に小枯が、楽しそうに笑いながら鬼鮫を見た。
「秋の大祭で神職に携わる三ツ山の子供がここに集まったことがあるんだ。南天も霜刃も、初枯もいた。初枯は参の牟礼の子だから大祭を見に来ただけだったけれど」
そう言って小枯はまた表に目を向けた。
吹雪の中に、何時かの秋の日和を見る眼差しで、柔らかく笑う。
「そこに子供だったお前がいたら、楽しかっただろうな。私はお前と喧嘩をしただろうと思うよ。お前はきっと、私の舞をからかうだろうから」
柔らかな笑みが鬼鮫に向けられた。懐かしさもそのままに。
「その頃から一緒にいたら、私たちはどんな風に育っただろうな」
「……」
その頃鬼鮫は仲間を殺して生き延びる為の鍛錬を積んでいた。
それが鬼鮫の里の慣例だったから。
「あの大祭では霜刃の舞が話題になった。凄かったぞ。あいつは昔から立ち姿も振る舞いも人目を引くくらい端正で上品だったから、舞もそのまんま…物凄く綺麗だった」
小枯が物思いしながら柔らかな微笑を浮かべたまま続けた。