悪役令嬢に転生したけど推しが中の人だった件について
第7章 対象キャラ全員の心を掌握したい
ノエルは目を逸らさずに言った。
だが、その頬がわずかに紅潮しているのを、私は見逃さなかった。
(いやいやいや、絶対“研究”だけじゃないでしょ!?
今の言い方、完全に“俺の前で他の男に懐くな”ってやつじゃん!?)
──雷の観察者。
冷静沈着で、感情に流されないはずの彼が、
今、確かに“嫉妬”している。
(好感度、跳ねた……!)
でも、令嬢としては微笑みを崩さない。
スカートの裾を整え、姿勢は保つ。
「……では、次の観察、楽しみにしておりますわ。
“混合属性下の反応”、きっと面白い結果が出ますわね」
「……ああ。君が協力してくれるなら、な」
その言葉は、雷のように静かで、
けれど確かに、心に火花を散らした。
講堂の空気は、レオンとヴァイオレットの気安い笑い声で柔らかく満ちていた。肩を寄せ合うような距離感に、ユリウスの風は揺れる。
(……尚早だ。あの頃のヴァイオレットと、俺を思い出させる。だが、違う。あれは俺のものではない。嫉妬か……)
ノエルがヴァイオレットに何か囁き、彼女が楽しげに笑う。その瞬間、ユリウスは我慢できず、柱の陰から姿を現した。
「……ヴァイオレット。よくやっているな。さすがはローゼンの名を背負う者だ」
柔らかな声。優しい従兄弟の仮面を被った微笑み。だが、その視線はノエルに向けられ、風の冷たさを帯びていた。
ノエルは一瞬、目を細める。
「……従兄弟殿。褒めていただけるのは光栄ですが、彼女は私の隣にいるのですよ」
牽制に牽制を返すような言葉。空気が張り詰める。
ヴァイオレットは、胸の奥でキャピキャピと弾む感情を抑えきれなかった。