【ハイキュー!!】矢印の先に、俺(私)はいない【R指定】
第4章 The Line Between Us
黒尾の頭の中に、さっきの校舎裏の光景が一瞬でよみがえる。
「ずいぶん、あの人に必死だったね。」
研磨がゆっくりと告げる。
それは責めるでもなく、淡々とした事実。
だけど、その静けさが黒尾の心を逆撫でした。
黒尾の指が、胸ぐらからするりと離れた。
音もなく力が抜ける。
顔がわずかに歪んだ。
言い返す言葉が、どこにも見つからなかった。
研磨は胸元を直しながら、黒尾の顔を見据える。
その瞳の奥にあるのは怒りでも勝ち誇りでもなく––––。
冷たい、長いあいだ積み重ねてきた感情の“境目”だった。
(あの時………。クロは、もう仁美だけを見てたわけじゃなかった。)
その瞬間を、研磨ははっきりと覚えている。
黒尾が“他の女”を好きになった、その瞬間を–––––。
研磨は一瞬目を伏せて、そしてゆっくりと顔を上げた。
「……腹、立ってたんだよ。」
静かな声だった。
黒尾が眉をわずかに動かす。