【ハイキュー!!】矢印の先に、俺(私)はいない【R指定】
第11章 The Night I Chose You
黒尾の顔は辛そうに顔を顰めていて、まるで彼が失恋したように仁美には見えた。
だけど、そんな黒尾に、もう仁美は傷付かなかった。
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仁美 の手を引いたまま、黒尾は周囲の景色など見えていないような足取りで前へ前へと進んでいた。
いつもなら、彼は仁美 の歩幅に合わせてくれる。
少し歩く速度が遅いと、無言で手を引き直して歩調を合わせてくれるのだ。
そんな黒尾の優しさを、仁美 は知っている。
──なのに。
今日の黒尾はまるで何かから逃げているように、あるいは押し寄せる感情に抗うように、ただ早く、ただ強く、仁美 の手を握っていた。
「……クロ。」
小さく呼んだ声は、風に溶けて消えた。
「クロ……っ。」
二度、三度。
歩幅を追いきれず、仁美 は息が上がっていく。
そして四度目。
「クロ!」
ようやく黒尾の足が止まった。
振り返った黒尾は、はっとしたように目を見開く。