【ハイキュー!!】矢印の先に、俺(私)はいない【R指定】
第10章 Honeyed Threat
どれくらい泣いていたのか分からない。
やがて、呼吸が落ち着き、涙が乾き始めた頃。
仁美はゆっくり離れて、かすかに笑った。
「……ありがとう、研磨。」
研磨は何も言わず、ただうなずいた。
仁美は小さく会釈してマンションの中へ。
エントランスの自動ドアが閉まる。
階段を上る気配が薄く聞こえ、部屋の電気がぱっと灯る。
研磨はその灯りを見上げながら、しばらく動かなかった。
それからポケットに手を入れ、スマホを取り出す。
画面には、《通話中》と表示された黒尾の名前。
研磨はスマホを耳にあて、低く問いかけた。
「……聞いてた?」
わずかな沈黙。
そのあと、震えるような小さな声。
『……うん』
黒尾の声はかすれていて、泣いていたことがすぐに分かった。
『仁美……甘えたら絶対かわいいよな……なあ研磨……。』
研磨は一拍だけ目を閉じ、淡々とした声で返した。
「……切っていい?」
研磨が通話を切ろうとした、その瞬間。
『……ありがとう。』