第12章 君と幸せ
そもそも卒業したらすぐにでも鈴と籍を入れるつもりだった。それなのに若すぎるだの、当主の許可がいるだの、余計なお世話だ。
結婚したら任務で長期間会えなくても他の男に鈴を取られる心配もしなくてよくなるし、こういう変な女に絡まれることも少なくなるはずだ。
そんなことを考えていたら、ようやく家に着いた。
(…今日は会合だって言ってたな。遅くなるのかなぁ)
卒業後に一緒に住み始めたのは1DKのアパート。
サテン素材のパジャマを着て部屋でくつろぐ鈴がもう寝ようかなとベッドへ向かおうとした時、玄関でガタガタ大きな音がした。
「恵?おかえり」
大きな音をさせるなんて彼らしくない、と思いながら玄関に向かう。少しふらつきながら壁にもたれかかる伏黒に駆け寄ると、手を引っ張られてぎゅっと抱きしめられた。
お酒の匂いがするし、体も熱い。
「大丈夫?酔ってるの?」
酔わない体質だと言ってたのに、と思いながら額に手を当てる。熱はないみたいだけど、肩にのしかかられてちょっと重い。
「…鈴」
「なに?」
「早く結婚したい……」
「うん。………え?え!?あの…って、寝てる…?」
伏黒は鈴の肩に寄りかかり、すやすや寝息を立てていた。
重さに耐えきれず、伏黒を落とさないよう玄関にしゃがみ込んだ鈴はしばし呆然とした。
(結婚…、そりゃいつかは結婚したいって思ってるよ。けど、そんな素振りなかったじゃん。クリスマスの時だって…)
クリスマスにもらった左手の薬指の指輪をなぞる。愛の証みたいで嬉しかったけど、別にプロポーズされたわけじゃなくて。その時は指輪だけで十分幸せだったのだけれど。
「ねぇ、恵」
膝の上ですやすや寝息を立てる彼。頬を指でツンツンしても起きる気配はない。なんて無防備。特級呪術師になったくせに、私が呪いならやられちゃうよ、とかありもしないことを考えてしまった。