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伏黒くんと。【呪術廻戦】

第12章 君と幸せ


 
 高専を卒業して一年が経つ。呪術師として任務に勤しむ日々。
 学生の頃と違い、御三家絡みの鬱陶しいしがらみを感じることが増え、在学中は守られていたのだと実感する。

 今日だって行きたくもない禪院家主催の会合とやらに呼ばれて嫌々出席している。早く彼女が待つ家に帰りたいのに。
 
 御三家の人間に媚びへつらう人達を遠目で見ながら、伏黒は帰るタイミングを図っていたが、不意に名前を呼ばれて視線を向けると、厚化粧の女が酒が入ったグラスを持って立っている。

「伏黒さん、ですよね?ご活躍は伺っております」
 地方の呪術師の家系だとにっこり笑った女は聞いたことも見たこともない相手。そこそこ美人なのかもしれない。興味ないけど。
 媚びる相手を間違っているのではないかと思ったが、どうもと差し出されたグラスを受け取る。

 口をつけると苦い味がした。
 そもそも伏黒はあまり酒を飲まない。強い酒だろうが全く酔わないから、というのがその理由だ。下戸の五条に話すと、「血は争えないねぇ」と笑うから、どういう意味だと聞き返したら含み笑いをするだけで何も教えてくれなかった。

 女の退屈な話に少し付き合った後、しばらく時間を潰してして会場を出たが、くらくらと目眩がし始めて気分が悪い。
 急にどうしたというのだろう。歩道のガードレールにもたれかかりながら顔を上げると視線の先にさっきの女がいて、酒の味が蘇ってきた。
 
 確信した。この女が何か薬を盛ったのだと。

「大丈夫ですか?」
 嬉しそうな口ぶりで赤い唇を動かしながら腕を絡み取られる。左手薬指の指輪が見えないんだろうか。
「すぐ近くにホテルがあるからそこで休みましょう?」
 それが目当てか。既成事実をつくって禪院家との関わりを持ちたいとかそういうのだろう。

「私、伏黒さんのこと、ずっと前にお会いした時から好きだったんです。覚えていらっしゃらないと思うけど」
「…っ!離せ…!」
「安心して。誰にも言いませんから。あなたの彼女にだって。さ、行きましょう」
 
 一度振り払った手を、しつこくまた絡め取ろうと近づく女。
 鈴を裏切るようなことできるわけないだろうが。狂ってるとしか思えない。
 待って、と縋りつく女を振り切って伏黒はくらくらするのを何とか抑えて走った。五条にチクッて、一族もろとも呪術界から消えてもらおう。


 
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