第7章 メイドカフェ ※
「いらっしゃいませ、ご主人様」
秋葉原のメイドカフェで客を満面の笑みで迎えた鈴は席へと案内する。最初はメイド服にもドキドキしたけど、制服だと自分に言い聞かせると意外と平気になった。
「いやー、蓮見さんが来てからお客が増えて嬉しいねぇ。みんな元気になったし、変な事もなくなったし!」
レジ脇の定位置に戻ると明るく声を掛けてきたのはここのオーナーである。鈴の正体を知るのはこの人だけ。
バイトを始めて一週間。数日前までこの店は従業員の体調不良や、窓ガラスが突然割れたりなどの怪異に悩まされていた。
ひとつひとつは取るに足らない事だが、変な噂が立ち、店の運営にまで差し障り始めた頃色々な知り合いに相談したらしい。
それが巡り巡って、窓から話が届いたことで高専が介入する事になった。
まず鈴がしたのは鬼門の位置に魔除けの呪符をはったこと。翌日から怪異は起きなくなった。これだけで済むのなら鈴もうお役御免なのだが、ひとつ気になる事がある。
-ーー誰かの視線、である。
怪異は全く起こらないが、日に日に視線は強くなる。最初は客かと思っていたが、開店準備中でも感じるからどうも違うらしい。
(五条先生に報告しなきゃだよね…)
考えこむ鈴の耳に先輩メイドたちの話が聞こえてきた。
「あの子、最近ファミレスでバイト始めたらしいよ」
「へぇ、あんなことあったのにまた接客なんだ。ま、ファミレスなら怖い思いもしないか」
「あのー、怖い思いって?」
立ち話していた同僚は鈴の声に振り向いた。
「そっか、蓮見さん最近入ったから知らないよねー。半年ぐらい前にここで働いてた子、客にストーカーされちゃって。シフトも把握されてて、裏口で出てくるのいつも待ってたの。超キモかったよね!」
「警察沙汰にまでなってその子もお店もやめちゃったんだ。スカーレットさんも気をつけた方がいいよー」
(ストーカーかぁ…。それって結構怨みつらみ強いよね)