第3章 依依恋恋 三話
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物心ついた頃から断片的に繰り返し見る、不思議な夢がある────。
【夢の中の自分】は、子供だった自分よりもずっとずっと大人で、住んでいる場所も周りの景色も、着ているものもすべてが現実とは異なっていた。当時はまるで理解出来ていなかったが、【夢の中の自分】へ年齢が近付いて行く程に、そこが所謂戦国時代と呼ばれていた時代だったのだと知る。垣間見える光景はいつも断片的で脈絡もなく、他愛もない日常がほとんどだ。
機嫌良く料理を作る姿、調薬らしき行為に勤しむ姿、そして────誰かに笑いかけている姿。【夢の中の自分】はその【誰か】と共にいる時が取り分け幸せそうであった。けれど、肝心な相手の姿は真っ白な靄(もや)でもかかっているかのように不明瞭で、声すら聞こえて来ない。唯一分かるのは、その相手が【彼】だという事だけ。いつしか凪は幼心に、顔は勿論の事、背格好すら分からない相手へ興味を抱くようになった。
【私】があんな風に幸せそうに笑いかけている相手は、一体どんな人だろう。どんな風に笑って、どんな声をして、どんな姿をしているのだろう。夜、眠りに就く度、今日はあの夢を見る事が出来るだろうかと心躍らせる程の高揚感は、今改めて思い返すと恋に近い感情だったのかもしれない。
仲の良い友人には勿論、両親や数歳年下の弟にも明かした事のない、凪の秘密。姿形も見えないその相手が大きな手のひらを伸ばし、【私】の頭を撫でてくれる。それだけで胸を騒がせていた凪にとって、【彼】は紛れもなく────初恋の相手に違いなかった。