第2章 依依恋恋 二話
その表情を真正面から見る事が出来ないのが、少々惜しい。本当は今すぐにでも囲い込んでしまいたい。それは光秀の紛れもない本心だ。だが、今生の凪には今生なりの生き方というものがある。それを自身の欲望だけで縛り付けるのは、単なる自己満足だ。
(お前がお前らしく生きられるのなら、それで構わない)
幸いな事に、気は長い方だ。待つのも慣れている。それこそ、凪と出会う事の叶わなかった長い時に比べればこうして言葉を交わし、その愛らしい笑顔を目にする事が出来るだけでも、それこそ僥倖(ぎょうこう)と言えよう。
(もっとも、他の男に渡す気はないが)
くすりと小さな笑みを零し、赤信号で一度停車した光秀が助手席に座る彼女を映した。光秀が五百年前、愛したそのままの姿で微笑む凪を映し、その目元が自然と甘やかに綻ぶ。
「ああ、楽しみにしている」
その熱のこもった一言を耳にした刹那、凪の頬がじわりと熱を帯びた。しかし、ちょうど信号が切り替わった光秀は、彼女の変化を目に留める事が出来ない。火照る頬は果たして夕日に染められてしまっただけか、それとも────。長い時を越え、再び邂逅した二人は静かなエンジン音と走行音だけが聞こえる静寂の車内で、何故か心地良い沈黙のひと時を過ごしたのだった。