第4章 薄紅色の恋(冨岡義勇)
「お前の顔を屋敷で見た時…まさかという信じられない気持ちと、無事だったのかという安堵感とが混ざって…言いようのない感情になった。だから…」
水柱様は再び目線を庭に移された。
「お前が雫である事を思い出せなくても、雫だとわかっただけで十分だ。
…先生も安心しただろう。」
先生…と水柱様が呼んでいるのは、元水柱である、鱗滝様だと聞いたことがある。
「…お前の両親には随分強引な事をした。
お前にも…知らなくて良い事を知らせる事になった。
すまない…」
頭を下げる水柱様に動揺する。
『お顔をっ…上げてください、水柱様。
両親の事は驚きましたが…感謝する気持ちは変わりませんし、血が繋がっていなくても嫌いになんてなれません…
だから…せめて…』
水柱様の方を見ると、握り拳に力が入った。
『…教えていただきたいです。
私が、雫という人間として、水柱様とどのように過ごしていたのか…誰とどんな事をして、私は普段どんな風に話していたのか…知りたいです。』
「…いいのか?」
『はい。水柱様のお手を煩わせることにならなければ…』
水柱様は驚かれながらも、少しずつ、お話をしてくださった。
鱗滝様のこと。
錆兎という少年のこと。
好きだった花、食べ物、よくした遊び。
訓練の事、怪我をした事、取っ組み合いのケンカした事…
時間はあっという間に過ぎていった。
頷きながら、微笑みながら話を聞き終えると、自分でも驚くような気持ちになっていた。
『水柱様、よろしければ…今度の非番の日、狭霧山に行ってみてもよろしいですか?』
「狭霧山にか…?」
『はい…知りたいんです。自分の事を。思い出せるなら思い出したい。だって狭霧山にいた私も、私の一部なので…鱗滝様にも、育てていただいたお礼をきちんと自分の口から、お伝えしたいです。』
理由はもう一つあった。
水柱様がご自分を責めるのをもう見たくない。
私が記憶を取り戻せたら、水柱様のお気持ちも少しは軽くなるのではないか…
そんな風に思えた。