第5章 事故、そして…
「立ってねぇでこっち来たら?」
そういわれ重たい位の足を踏み出す雅。ベッド脇の椅子にカタンと座れば堪えていた涙がポロポロと零れだした。
「どうした?来て早々」
「すみません…ッッ」
「何が」
「特別なものでも…チームメイトでも…ないのに…ッッ…迷惑かなって思ったのは扉の前着いてからで…ッッ」
「ん?」
「ミキさんから…加賀さんが事故ったって…今日聞いて…」
「あー、昨日な」
「…ッ…」
「テスト走行でな、ちょっとやらかしちゃってよ」
「……ッッ」
「で、このありさまだ。重症じゃないだけいいけど、今回のレースは見送りだってよ。」
「…加賀さん…」
「そういう事だからよ、泣くなって…」
止まらなくなる涙と嗚咽…ハンカチもびしょびしょになっていく。
「…ハァ…頼むから泣き止めって、俺が泣かせてるみたいじゃねぇか」
そういう加賀の声も迷惑という色ではなく、ただ困っている声色だった。
「…でも、食事は延期だな、わりぃ」
「…いいです…そんなの…」
「それか三人で行ってこりゃ良いだろ」
「それじゃ…意味ないんです…」
「んなことねぇだろって」
クツクツと喉を鳴らしながらも笑う加賀。病院の独特の掛布団を握りしめて雅は止まらなくなった思いが漏れ始めていった。
「…私が…加賀さんがいてくれないと…嫌なんです…」
「雅ちゃん?」
「ミキさんに事故ったって聞いて…いてもたってもいられなくて…オーナーたちに気づいたら許可もらいに行って…すぐ向かってた…んです。」
「…ん」
「無事でいてほしいって…そんな事思われても迷惑かもしれないのに…」
「…そんな事ねぇよ」
「…ッッ…好き…なんです…加賀さんの事が…」
静かすぎる病室にしっかりと響いた雅の告白。それを聞いて加賀はそっと雅の頭を撫でた。
「…やめとけよ、俺みたいな男。もっといい奴、居るだろうからよ」