第16章 恥ずかしさともどかしさの狭間
ガーランドから降りてきたアンリを迎えた雅はそのまま待っているとポスっと肩にもたれるアンリ。
「…どうしたの?」
「風見先輩もリタイアで…結果誰も抜けなかった…」
「大丈夫だよ」
「どこが…?」
「ハァ…」
そっとアンリの背中をトントンと優しくなでる雅。
「…大丈夫。アンリは精いっぱいやった。だから大丈夫。」
「精いっぱいやっても勝てないって事でしょ」
「卑屈にならない。苦手だった。それだけでしょ?」
「…別に…」
「途中のヘアピン…そこから坂に入って右に曲がる所…」
そういわれてアンリの体はピクリと一瞬震えた。
「…やっぱり…」
「うるさい…」
「そこの減速加減が他のマシンよりも、ドライバーよりも大幅に減速してた。だからそこからの加速に時間がかかる。」
「…もぉ…」
「原因は解ってる。だったらヘアピンのコーナリング、制度を上げるしかないじゃない。次からのレースの為に」
「…・・子供扱いしないでくれる?」
「してないけど?」
「……解ってる…ごめん」
「ううん、だから大丈夫」
そんなやり取りはスゴウの中ではよく見られている。しかしそれをふと目にした加賀は心中穏やかではなかった。
「…ッッ」
そんな場面を見られているとも気づいていない雅はいつも通りあやす様に背中を撫で続けていた。
「…もう大丈夫。」
「ん、」
その一言でゆっくりと離れ、よし!と笑いかける雅。シャンパンファイトが始まる中、その後のインタビューでは加賀の機嫌が悪かった。
「…どうかしたのかな…」
そう思っていた雅の元にフィルがやってくる。
「…こんにちわ」
「あ、フィルさん、おめでとうございます」
「僕は何も…」
そうして二人そろって表彰台の加賀を見つめた。
「…機嫌、悪くないですか?」
「やっぱり、雅さんもわかりますか…」
「どうかしたんですか?」
「分からないんですよ…」
そう返すフィルの言葉に二人そろって『うーん…』と首をひねるしかなかった。