第21章 誤魔化し
悠仁がふと立ち止まり、こちらを向く。
夜の街灯が彼の目を照らし、その奥にある濁った感情を浮かび上がらせた。
悠「じゃあ、俺が今日これから“冗談”でキスしても、平気ってこと?」
「え……?」
返事を待たず、悠仁の手が女の手首を掴んだ。
力強く、しかし暴力ではない絶妙な強さで。
彼の瞳には“逃がさない”と書いてある。
「駅、通り過ぎたよ?」
悠「うん。……今日、泊まってってよ。ゆっくり話したいし、ちゃんと、確かめたい。」
その言い方が何を意味するか、すぐに分かった。
拒絶しようとして、言葉が喉に詰まる。
逃げたいのに、手を引かれるその力に抗えない。
ホテル街に差し掛かる。
煌びやかなネオン、入り口で呼び込みをする男たち、照らされる1室ごとの窓の灯り。
このまま流されてしまえば、何かが戻れなくなる気がした。
「悠仁……っ、やっぱり、帰る……!」
勇気を振り絞って言った瞬間だった。
甚「――……おい。」
低く、喉の奥で掠れるような声がした。
振り向けば、そこには伏黒甚爾が立っていた。
冷めた目。
スーツのジャケットを片手に持ち、シャツのボタンが2つ開いている。
だがその乱れた服装よりも、彼の纏う“気配”にゾクリと背筋が粟立つ。
「……甚爾?」
女が声を上げると、悠仁の手が緩んだ。
だが甚爾の目は、まっすぐ悠仁に向けられていた。
甚「何してんだ、ガキ。コイツ、連れてどこ行こうとしてた?」