第3章 鬼に稀血
擦り切れた場所から血が滲み、痛みに顔を歪ませながら仁美は倒れている実弥に手を伸ばした。
「!!!」
実弥を仰向けにしたら、彼の下腹部から黒い隊服でも分かる位の血が滲んでいた。
地面をよく見たら点々と血が落ちている。
実弥は汗を大量にかいており、その顔色は悪かった。
仁美は思い出した。
最初に聞いた肉の馳せる音は彼が受けた傷だったんだ。
「…あっ……。」
瀕死の実弥を見ていたら、仁美の心臓が大きく動いた。
その後に体中に流れている血が熱くなるのを感じた。
実弥を抱いている手が震えて仁美は目を見開いて実弥を見ていた。
「…死…死なないで……。」
鼓膜に自分の心臓の音が響いた。
初めて会った人間。
初めて鬼を殺す事の出来る人間に出会った。
初めてあの屋敷から出られた。
かけがえのない人に出会ったと言うのに、今その人を失おうとしていた。
失いたくない。
彼に……。
生きていて欲しい。
1人になる絶望感よりも、誰かを失う喪失感の衝撃が全身に広まった。
仁美はその時、自分の血がなんの為にあるのかを知った。