第1章 光を厭い 光に憧る
「何か困ってます?」
最近よく聞くようになった声にはたと顔を上げると、白失の顔を窺うように少し屈んだホークスと目が合った。
ホークスの瞳に映るのはいつも通りの無表情、困っている様子など外からは分からないはずなのに。
どうやったらあなたを今回の捜査から外せるか悩んでいたんです、などとは当然言えない。
だから問い返した。
「……どうしてそう思ったんですか?」
「あ、違いました?なんとなく困ってそうな背中だったんで」
「……」
言葉が出なかった。
背中を見ただけで声なき声まで分かってしまうの?
私みたいな取るに足りない薄汚い人間にも手を差し伸べるの?
……でも、心のどこかで納得した。
だからこそ助けを必要としている人々をいち早く見つけ、救うことができる。
それができるから、やり遂げるからこそヒーローと呼ばれるのだ。
私など比べるにも値しない。
やはりこの人は向こう側にいるべきヒーロー、その翼も心も汚されてはならない。
こちら側に来てはいけない人だ。
この時、カチリと心が決まった。
「別に困り事はありません。声を掛けてくださり、ありがとうございます」
結局、敵の子は敵になるしかないのだとしても、彼がこちら側に来なくて済むのなら私なんていくら汚れても構わない。
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公安内部でどうしようもないなら、もっと外側を巻き込もう。
世間はヒーローの味方だ。
ホークスがこんなことをやらされようとしていると知れば、世間は公安を叩く。
市民の声は公安では対抗できない程大きな力となるはずだ。
懸念事項は一度焚き付けたら私などでは制御できないこと。
どこにどう燃え広がるか分からないし、いつまで燃え続けるかも見当がつかない。
最悪その矛先がホークスに向かうことも考えられる。
それだけはなんとしても避けなければ。
そうして考えついた手段はどこからどう見ても真っ当なものではなかった。
幼い頃、皆から言われ続けたことは本当だったんだ。
私は相変わらず敵らしいことしかできない。