第1章 光を厭い 光に憧る
そしてまた別の日、今度は図書館であのいじめられていた少女を見つけた。
人目を憚るように端の席に座り、黙々と本を読んでいる。
机には様々な本が積まれているが、少女が読み切れる量とは思えなかったし、この年齢の子供が読む分野ではないことも見て取れた。
公安職員の自分が声をかけるのもどうかと思ったが、ちょうど同じ年頃の少年が公安で訓練を受けていることもあり、放っておけず少女の隣の席に腰掛けた。
「こんにちは」と挨拶すると、顔を上げた少女と目が合う。
その瞳はひたすらに昏かった。
「本が好きなんですか?」
質問が自分に向けられたものなのかを確かめるように周囲を見た後、少女は細い声で返答した。
「……普通、です」
「これは借りる本?」
「違います」
「全部読むのは大変ではないですか?」
「別に」
必要最低限の返答や仕草からなんとか感情を読む。
幸い拒絶されてはいない。
「もし読み切れなかったら借りるんですか?」
「図書館のカードがなくて、借りられません」
「小学生でも作ってもらえますよ」
「私はダメだと言われました。それに借りたらきっと盗んだと思われます」
施設でいじめを受けていることに起因しているのだろうか、小学生らしからぬ言葉に目良は愕然とする。
もし彼女の言う通り図書館司書にカード発行を断られているのだとしたら、大人までもがこの少女を虐げていることになる。
「……それはどうしてでしょうか?なぜ図書カードを作ってはダメだと言われたんですか?」
「私が泥棒の子供だからです。親が泥棒だから、その親から生まれた私も何か盗むに違いないとみんなが言います」
そう話してくれた少女の昏い瞳は深い諦めに沈んでいた。
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