第19章 交差する影、歪む真実
トランペット――いや、花畑は息を整えながら、なおも混乱した様子を見せていたが、すぐに切り替えるように立ち上がった。
「……デストロの元へ向かう。君も来い」
私が頷きかけた、そのときだった。
「――そういえば、名は?」
花畑の問いかけは、静かに、けれど鋭く差し込むようだった。
私はわずかに沈黙した後、短く答える。
『カゼヨミ、です』
そして心の中で、ひとつだけ名前を浮かべる。
(……ツクヨミ。ちょっと、真似させてね)
あの日、お互いヒーローなろうと誓った。
今はまだ、遠い場所にいる――私の、大切な友人。
「カゼヨミ……覚えておこう」
花畑はひとつ頷き、歩き出す。
私もその背に続いた。
⸻
そこは――すでに、“決着”のついた戦場だった。
地面は抉れ、ビルは骨のように骨組みだけを残し、瓦礫に変わっていた。
その中心で、両足を失った…異能解放軍の総帥――リ・デストロ。
その目の前には、あの男がいた。
――死柄木弔。
全身を満たすような、禍々しいほどの「静寂」があった。
言葉では表せない圧力。
戦いが終わったはずなのに、戦場の空気が消えていなかった。
その沈黙のなかで、デストロは――
自らの“敗北”を認めるように、頭を垂れた。
「異能解放軍は――ヴィラン連合についていく」
その一言が放たれた瞬間。
見えない重圧が、空気を震わせるように広がった。
あれほどまでの組織が――
国家の中枢を脅かすほどの勢力が、
たったひとつの集団の「下についた」と。
さっきまで街を壊し、命を脅かしていたヴィラン連合。
その力は、想像以上に“進化”していた。
トゥワイスの圧倒的な個性の拡張。
死柄木の“崩壊”がもたらす、一撃で都市を飲み込むほどの災厄。
(……彼らの力が、“集まった”)
異能解放軍の戦力と組織力。
ヴィラン連合の実行力と、個性の破壊力。
(こんなの――)
国家の防衛すら、意味をなさないかもしれない。
そう思わせるほどの危機が、目の前で静かに確定していた。
私は、風の中で立ち尽くしていた。
(公安に、伝えないと――)
けれど、今の私は“カゼヨミ”としてこの場にいる。
まだ“見ている”ことしかできない。
動けば、すべてが終わる。
だからこそ、今だけは――
風の気配を殺して、その中心に立つ者たちの一言一句を、逃さずに見届けた。
