第5章 交わる唇、揺れる想い
ソファからゆっくりと立ち上がった轟くんが、視線を少しだけ伏せて言った。
「……そろそろ、俺、帰らないと」
時計の針はもう0時を過ぎていて、静まり返った夜の空気がふたりを包んでいる。
その言葉には無理をしている感じはなくて、彼なりの一日の区切りを感じた。
私は静かに頷いた。
『そうだね、無理しないで。今日はゆっくりできて、よかったよ』
そう答えると、彼は少しだけ照れくさそうに顔を上げて、小さな笑みを浮かべた。
「……また、来ていいか?」
声はほんの少しだけ震えていて、普段は見せない不安が隠れているようだった。
私は迷わず、ゆっくり頷いた。
『もちろん。いつでも待ってるよ』
その言葉に、彼の表情はほっと緩んで、安心したように見えた。
「ありがとう……」
玄関のドアを開けると、夜風が冷たく頬を撫でた。
轟くんが少し笑みをこぼしながら、ぽつりと呟く。
「じゃあ、また明日、いや、今日か……」
私は軽く手を振りながら、温かく声をかけた。
『うん、またね』
ふたりの影は夜の街灯に溶け込み、静寂の中へとゆっくり溶けていった。