第5章 交わる唇、揺れる想い
『轟くん……? もう夜遅いよ』
私はもう一度、彼の名前を呼んだ。
すると――
「……ん……」
彼のまつげがわずかに震え、次の瞬間、ふわりと目を開けた。
まだ焦点の合わないその瞳。
きょとんとした顔で、ぼんやりと私を見つめてくる。
「……あれ。おれ……寝てた、か」
言葉も、声も、いつもよりわずかに緩くて。
『う、うん。ちょっとだけ、だけどね』
「お前も、……寝てたろ」
『そ、それは……そうだけど!』
返しながらも、私はどうしていいかわからずそわそわする。
こんなに近い距離で、ふたりで寝ちゃってたとか、冷静になればなるほど顔が熱くなる。
なのに、そんな私の焦りをよそに――
轟くんは、眠気の残る目で私をじっと見つめた。
「……なんか、すげーやわらかい」
『えっ……?』
「……お前の肩。あったかかった」
ぽつりと、そんな言葉を呟いて、またこてんと私の肩に額を預けてくる。
『ちょ、ちょっと轟くん!?』
「……もうちょいだけ」
その声は、本気で眠気とたたかう子どもみたいで――
なのにそのまっすぐな仕草が、どうしようもなく、心をくすぐった。
『……ん、もー……少しだけだよ』
困ったように笑いながら、私はそっと背もたれに身体を預ける。
まだ続く雨音の中で、再びふたりの世界が静かに包まれていく。
(……あったかいの、こっちのセリフだよ)
そんな言葉は、さすがに恥ずかしくて、胸の中だけにそっとしまっておいた。
――この夜は、もう少しだけ、終わらないままでいてほしいと思った。