第13章 この手が届くうちに【R18】
手首の拘束は、もう感覚が麻痺していた。
金属が肌に食い込み、熱の残った空気が喉を焼いていく。
「逃げられないの、もうわかったろ」
耳元に、ささやく声。
その音だけで、背中がぞくりと震えた。
「じゃあさ、そろそろ──お前の“本音”を見せてもらおうか」
私は小さく首を振った。
意識はまだギリギリ残っていたけれど、視界はぼやけている。
身体は痛みに鈍く、何もかも遠い。
『……触らないで……お願い……』
呟くように言っても、彼は止まらなかった。
むしろ、それを“合図”のように感じたかのように。
「お願いって……それ、誰に言ってんの?」
ふっと笑う声とともに、
指が頬をなぞり、鎖骨へ、そして喉元へと這い降りていく。
「爆豪か? それとも……焦凍? ああ、ホークスだったか?」
一つひとつの名前が、私の心をえぐるように刺さった。
「お前さ、ずるいよなぁ」
唇が、耳朶に触れる。熱い。けれど、どこか凍るような温度。
「みんなに好かれて、みんなに守られて……
俺が欲しかったもん、全部持ってんのに、まだ足りねぇって顔してんだもん」
突然、顎を掴まれ、顔を無理やり上に向けられる。
距離が近すぎて、息ができない。
「……俺は、ひとつも持ってねぇのによ」
静かに、けれど確かに狂ったその瞳が、私の奥を覗き込む。
「だから、お前を壊す。俺の中に沈めて、ぜんぶ、塗りつぶしてやる」
身体が、押し倒された。
床の冷たさが背に伝わるより早く、彼の熱が覆いかぶさってきた。
『……やめて、……やめ……っ』
抵抗の声も虚ろで、言葉にならない。
唇が触れ、喉元に噛みつかれるようなキスが落とされる。
『やっ……だ……っ、やだ……っ!』
噛みつくように拒む。でも、彼はそれすらも“愛おしい”と言わんばかりに笑った。
「いいねぇ……その声、壊れてきてる。……もっと聞かせて」
手が胸元をなぞり、震える体温を確かめるように滑っていく。
そこは昔、焦凍がそっと抱きしめてくれた場所。
爆豪が肩を貸してくれた、あたたかかった場所。
それなのに、いまは――
冷たい熱と狂気で、すべてを塗り替えられていく。
涙が零れた。
それを見て、彼はやっと目を細めた。
「やっと、いい顔になったな」
その手が、私の心を握りつぶすように、深く触れた。
「壊れていくお前が……いちばん綺麗だ」
