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【ヒロアカ】re:Hero

第12章 あの日の夜に、心が還る


想花side

『……っ、かつ……き……』

声にならない声が、喉の奥でちいさく震える。

私はまだ、荼毘の腕の中にいた。
焼けつくような熱と、狂気に満ちた息遣い。
それに抗おうと、何度も指先に力を込めようとしたけど――動かない。

目の前では、仮面の男が何かを掲げていた。
光るビー玉。その中で――

『……勝己……!?』

あの中に、彼がいる――!

轟くんと緑谷くん、障子くんが駆け寄って、必死に男に掴みかかっていた。
でも、すぐに空気が歪んで、暗い霧が広がる。

「……お迎えか。便利なもんだな」

荼毘が、つまらなそうに口を歪める。

そして、仮面の男に目を向けて言った。

「確認しろ。……それが“本物”かどうか」

仮面の男がうなずき、ビー玉の中の個性を解放する。
土埃の中に現れたのは――

「爆豪勝己、確認。問題なしだ」

勝己の姿を見た瞬間、頭の奥がぐらりと揺れた。

ダメ。彼だけは……連れて行かれちゃいけない。

『……あ……ぁ……っ』

熱いものが込み上げる。涙か、ちからか、それさえ分からなかった。
でも――胸の奥に、ひとつだけ、光が残っていた。

――一度だけ、届いた奇跡の“転位”。

いま、彼を――戻せたら……!

『かつ……き……あなただけでも……』

どうか、届いて。

みんなのもとへ――

願いとともに、胸の奥で微かに光がともる。
それが私の最後の個性だった。

ぱ、と眩しい光が爆ぜて、彼の姿が空間ごと揺らぐ。

「……!? かっちゃんっ!!」

緑谷くんの声が、どこか遠くで響く。
光が消えた先に、もう勝己の姿はなかった。

成功した。――あとは、それだけでよかった。

ぼんやりと、こちらを振り返るみんなの顔が見えた。

私は微笑んだつもりだった。

『よかった……』

その瞬間、視界が暗く染まり、世界が遠ざかっていった。
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