第10章 翼の約束
ホークスの腕の中。
火災現場の熱とは違う、静かなあたたかさに包まれて、私はゆっくりと息を整えていた。
しんとした夜。
窓の外では福岡の街がまだ眠らずに瞬いている。
ふと──
彼の指が、私の首元にそっと触れた。
「……そういえば、これ……」
彼の視線の先。
インターンの途中から、いつも首にかけていた小さなペンダント。
小さく、細く加工された、ひとつの赤い羽根。
『……あ、…… 私の個性でね……あなたから貰った"羽根"を傷まないように、閉じ込めたの』
ほんの少し、恥ずかしくて視線を逸らす。
『……お守り、みたいなもの。勝手に……ごめんね』
彼は、一瞬だけ息を呑んだようだった。
そして、次の瞬間。
ぎゅうっと、腕の力が強くなった。
「……なんで、そんなの、反則だろ」
低く呟いた彼の声に、少しだけ戸惑う。
でも、拒まれるような温度じゃなかった。
それは、どうしようもなく優しい感情が、あふれそうになってるのを抑えるような、そんな声だった。
『……ホークス?』
「おれさ……」
彼の手が、私の背中でかすかに震えていた。
「ずっと、君を守りたいと思ってた。だけど……こんなもん、見せられたらさ」
──想いが、あふれそうになるだろ。
「……何かあったら――おれが助けに行くから」
静かな声でそう言って、彼はそっと、額を私の肩に預けた。
その言葉の重さに、胸がじんわりと熱くなる。
『……うん。知ってるよ』
答える私の声は、ほんの少しだけ震えてた。
でも、その夜のふたりの距離は、もう誰にも踏み込めないほど、静かで、特別で。
──それは、恋じゃないかもしれない。
けど、誰よりも深い想いが確かにそこにあって。
いつか言葉にできる時が来るなら、
そのとき私は、ちゃんと、伝えられるだろうか。
“ありがとう”の代わりに、そっと羽根に指を添えた。
彼のぬくもりは、いつだって、あたしの翼の根元で、ちゃんと生きている。