• テキストサイズ

ラストラインを越えて

第4章 メイクデビュー


翌日、メイクデビューの日の朝。
京都レース場の控え室で、試着室のカーテンが勢いよく開かれた。
『トレーナー、これゼッケン上手くつけれてますか?』
赤い体操着の上に白地のゼッケンを付けたホマレが神座の前に飛び出し、その場でくるりと回る。
「……左側が少し緩いですね」
『左?』
「そっちではなく、あなたから見て左です」
神座から見た側を直そうとしたホマレに言う。
脇腹の辺りを通るベルトを覚束ない手付きで触りながら、ホマレは首を傾げた。
『どれくらい締めるのがいいですかね』
「貸してみなさい」
神座がホマレの前にかがみ、両脇のベルトを調整する。
「きつくないですか?」
『良い感じ。ありがとうございます!』
ホマレは上半身を捻りながら答え、神座に笑顔を向けた。
「そうですか。……あと15分ほどでパドックに出る時間です。そろそろ移動しなさい」
『はーい。トレーナー、私がんばりますね! 』
「ええ。応援しています」
ドアを開けながら言うホマレに、神座は頷いて答えた。
それを見て満足げに笑みを浮かべ、ホマレは控え室から出ていく。
『じゃあ、いってきまーす!』
口調は軽やかだったが、足音には明らかに緊張が滲んでいる。
遠ざかる足音を聞きながら、神座は浅く溜め息を吐いた。








/ 174ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp