第27章 ゲームセンター
6月のある日の放課後、キトウホマレは神座に同行してもらいゲームセンターに赴いていた。
トレセン学園から一番近い場所にある商業施設内、平日なので人混みはそこそこ少ない。
『まだ信じられないよ。私のぬいぐるみが出たなんてさ』
「信じるも信じないもありません。事実、プライズとして追加されると通達がありました」
ズラリと並んだクレーンゲームの筐体の中身に目を滑らせながら2人は通路を歩いていく。
『だってさー、すっごいウマ娘たちのぬいぐるみに紛れて私の分もあるなんて……なんだか変な気分。全然実感湧かない』
「優駿に近づいてきている証拠です。ただ、あなたならもっと誇らしげにすると思ったんですがね」
レースで活躍するウマ娘は人気であればあるほどグッズ化の機会が増える。
現状唯一のグッズではあるけれど、ホマレにとっては成長の可視化そのものだった。
『もちろん嬉しいよ。でも、ちょっと恥ずかしさもあるというか……もしいっぱい在庫残っちゃったらヤダなぁ』
困ったような顔でホマレはそう呟く。
自分を象った商品が誰からも欲しがられずに残り続ける状況はあまりにも悲惨だ。
『あっ、この辺りにありそう』
ウマ娘のぬいぐるみが詰められた筐体を見つけ、駆け寄る。
トレセン学園の制服や勝負服姿の人形でいっぱいだ。 筐体の前でウマ耳をピンと立て、尻尾を高く振るホマレの元に神座が歩いて近付いた。
「ありましたか」
『うーん、どうだろ。よく見えない……』
無数のウマ娘たちのぬいぐるみが無差別に置かれている。
ホマレと似た栗毛の髪を探すだけでも一苦労だ。
「そこにありますよ」
神座が指で指し示す。大きめのぬいぐるみの下敷きになっているような位置にキトウホマレの人形があった。
『うわーッ! ほんとにある!』
斜め下から覗き込みながらホマレが叫ぶ。
驚きと嬉しさと安堵と困惑が入り交じった声色だった。
『絶対に獲るから成功するまで見ててねっ』
「10分を過ぎたら離脱します」
『そう言わずに!』
ホマレが神座に勇姿を見せようと、財布から出した百円玉を筐体に投入する。
ピロン!と音を立てクレーンが起動した。