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【呪術廻戦/五条悟R18】魔女は花冠を抱いて眠る

第19章 「死に咲く花」


通路の端。
人通りの少ない、少し暗がりになった場所。
大きな窓の向こうでは、離陸前の飛行機が灯りの下で静かに佇んでいた。

 
先生はその窓際の壁にもたれかかり、私も隣に並んで立った。
ほんの少しだけ身体の一部が触れそうで、触れない距離。

 
静けさのなかで、空調の音とどこかの搭乗アナウンスが聞こえる。



「別に嫌なら言わなくてもいいけど」

「でも、が黙って何か呑み込もうとしてるときって、すごくわかりやすいんだよね。僕には」

 

先生はそれ以上は言わず、ただ視線だけを遠くの滑走路に向けていた。

 
私も、同じように先生と同じ方向を見る。


なにを、どう言えばいいのか分からなかった。
こんな弱い自分を見せたら、きっと失望されてしまいそうで――
でも、黙っているのは、もっと苦しくて。



「……赤い、アネモネが……」



また頭の中がぐちゃぐちゃになって、言葉が出てこなくなった。
そんな私に気づいたのか、先生が優しく言葉を継いでくれる。
 


「聞いたよ。枯れない赤い花――」

「諏訪烈が、遺族に接触してたって」



私は小さく頷いた。

 

「……あの花に、触れた時」

「悠蓮の映像が、頭の中に流れてきたんです」



自分の手のひらを見ると、まだ微かに指が震えている。
先生は、黙って聞いてくれていた。


 
「少しずつですけど……自分の力や悠蓮のことが、わかってきた気がしてたんです」

「悠蓮は“魔女”って呼ばれてたけど……本当は、そうじゃないんじゃないかって」

「でも、今日……頭に流れてきた悠蓮は――」



そこで言葉を切った。
自分の口から言うのが怖くて。


でも、言わなきゃ。ちゃんと、先生に……
ぎゅっと手を握りしめて、続きを絞り出した。



「……魔女でした」



自分の声なのに、どこか遠くで響いているみたい。



「……人が、いっぱい……死んでて」



言葉にした瞬間、景色の断片がまた一瞬だけフラッシュバックする。


赤い血。
焼けた風。
倒れた影。
耳を塞ぎたくなる叫び声。



「そこに、悠蓮がいて……」
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