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【呪術廻戦/五条悟R18】魔女は花冠を抱いて眠る

第19章 「死に咲く花」


***


トイレの洗面所の鏡の前で、私は何度も何度も口をすすぐ。
喉に張りついた苦味を、流しきるように。


顔を上げると、鏡越しに映った自分は青ざめていて。
このまま先生たちのところに戻ったら、きっと心配させてしまう。


(……しっかりしなきゃ)


目を伏せて、ひとつ息を吸う。


(もう決めたのに……)

(諏訪烈の思い通りには、絶対にならないって)

(どんな真実にも、向き合うって)


……なのに。


あの映像が、脳裏をかすめただけで。
あの赤が、ほんの少し滲んだだけで。


(……こんなに、揺らぐなんて)


悔しかった。
情けなかった。
何度も強くならなきゃって、そう思ってきたのに。


(みんな、私のために動いてくれてるのに)

(私が、これじゃ……ダメだ)


目がじんわり熱くなるのをごまかすように、もう一度だけ口をゆすぐ。


(先生たち、もう行っちゃったかな)

(……絶対聞かれるよね。どうごまかそう……)


手を拭いて、トイレをあとにすると――





人の流れから少し外れた先に、先生がいた。
壁に背を預けて、腕を組んで立っている。


先生は私に気づくと、こちらへ歩いてきた。
そして、片手に持っていたペットボトルを、私の前に差し出す。



「はい。冷たいの。飲みな?」



ペットボトルの表面には、うっすらと結露が浮かんでいた。


(……先生、待っててくれたんだ)


少し息を整えてから、それを受け取る。



「……ありがとうございます」



先生は首をかしげて、いたずらっぽく笑った。



「もしかして、食べすぎちゃった?」



視線を逸らして、私は誤魔化すように笑う。



「……馬刺しが美味しすぎて、食べすぎちゃったかも」

「七海さんたちは、もう搭乗口ですかね。私たちも急がなきゃ――」



そう言って、歩き出そうとした瞬間、手首を掴まれた。



「……」



振り返ると、サングラス越しにまっすぐ見つめられる。
何も言われていないのに、すべてを見透かされているような気がした。


(……やっぱり、隠せないよね)



「ちょっと、ついてきて」



先生が手首を引いて歩き出した。
私は黙って、それに従った。
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