第2章 「はじまりの目と、最強の教師」
「でもさ――」
不意に視線が絡む。
見えないはずの目隠しの奥から、まっすぐに“わたし”を見てくる。
「“わからない”ってだけで、自分を否定するのは違うでしょ」
先生は立ち上がり、わたしの頭にそっと手を置いた。
「それに、僕はの力、面白いと思うけどね」
「……っ」
思わず顔を上げた。
その一言が、不安の渦にすっと杭を打った。
怖さも、不安も、消えたわけじゃない。
でも、この人がそう言ってくれるなら。
少しくらい、自分のことを信じてみてもいいかもしれない。
そんな気がした。
「……ありがとうございます」
「先生って、やさしいですね」
呟いたその言葉に、先生はにやりと口元をゆるめる。
「僕のこと、好きになっちゃった?」
「そ、そんなこと思ってません!」
思わず声が上ずって、顔が熱くなる。
先生はケラケラと笑って、片手をひらひらと振った。
「はいはい。じゃ、また明日」
そう言って、先生は扉の向こうへ消えていった。
(五条先生……。最初は、ちょっと変な人って思ったけど)
(……なんか、ちゃんと、いい先生かもしれない)
(それに……不思議と安心する)
目隠しをしてるのに、まっすぐ見透かされたような、あの視線を思い出すと――少しだけ、胸が熱くなった。
立ち上がって、カーテンをそっと開ける。
春の夕日が差し込んで、まだ誰も触れていない空間をやわらかく染めていく。
深呼吸をひとつ。
今日この場所で、初めて――ちゃんと息ができた気がした。