第2章 三十六計逃げるに如かず。
「逃げるわ」
私の言葉にミオスは一瞬ポカンとした様な表情をする。
「でも、アンネレお嬢様絶対明日の舞踏会には出るって……」
本来のアンネレは明日の舞踏会を学生時代の最後の思い出―――そして、愛するノイシュをダンスに誘うのだと楽しみにしているのだ。その先に待っているのが意にそまぬ結婚でも。
「止めたわ。もう全部うんざりよ」
言えば、ミオスは又ポカンとした後ににまぁと悪い笑みを浮かべた。
そしてねっちょりした甘い声で言うのだ
「やっとあの三下デコ助に愛想が尽きたんですか?」
―――三下デコ助、多分ノイシュの事だろう。
ミオスは常々ノイシュを目の敵にしていた。
今やミオスはいかんとも形容しがたい笑いともなんともつかぬすごい表情をしている。
恋のライバルだったノイシュをアンネレが諦めたのが嬉しくて堪らないらしい。
アンネレだって薄々分かっていた。
もう誰も、周りに味方がいない事に、ノイシュが自分を愛していない事にも。