第21章 朗読セラピー
「そうして王子様とお姫様は末永く幸せに暮らしましたとさ……」
「うん、いいね、ありがとう」
「どういたしまして、ドクター」
執務室のソファで寝転んでいた私は、ディアマンにたった今絵本の読み聞かせをしてもらっていたところだ。
そこに、トントンとノック音がし、私は体を起こさないままどーぞと答えると、失礼しますとアーミヤが入ってきた。
「次はなんの絵本を読みましょう?」
しかしディアマンテはアーミヤの訪問に一瞥はしたが気にせず次の絵本を選ぼうとしている。そうだなぁと言っていると、アーミヤがすぐそこまで近づいてきた。
「あの、ドクター、お仕事の方は……?」
「ああ、終わったよ。アレ」
私はアーミヤの質問に、デスクに積み上がった大量の書類を指でさした。アーミヤは書類を確認している。その間にディアマンテは次の絵本を取り出した。
「では次のお話は幸せな王子様のお話にしましょうか」
「いいね」
そこでアーミヤが間に割り込んできた。
「あの、二人とも、何をしているんです……?」
アーミヤの問いかけにディアマンテは微笑を浮かべながら私に目を向けてきた。答えていいのかどうか、私にアイコンタクトで聞いているのだ。
「見ての通り、ディアマンテに絵本の読み聞かせをしてもらってるんだよ」私はそのままアーミヤに答える。「ディアマンテっていい声してるだろう? 朗読してもらいたいなってずっと思っていたんだよ。あの、あれだよ、あれ……えーっと、セラピーみたいな」
この前アニマルセラピーの話はアーミヤから聞いたばかりだ。疲れている時、何かに癒されたい時はセラピーを受けたらいいのだと分かった私は、尻尾以外にも何かないかと模索していたところにディアマンテの朗読に行き着いたのだ。これは朗読セラピーになるのかな?
「でも、ドクター……」
アーミヤは何か話そうとしてちらりとディアマンテへ目配せをする。私はその視線にアーミヤの心境を察した。
「ディアマンテ、ちょっと席を外してくれるかな。食堂でコーヒーでも飲んでさ」
私はディアマンテに龍門弊を渡して頼んだ。自販機か何かで飲み物を買うお小遣いに渡したのである。
「分かりました。ではドクター、アーミヤさん、失礼しますね」
何も焦った様子もないままゆったりとした口調でディアマンテはそう言い、執務室を出て行った。ちゃんと、執務室に出る際にお辞儀もして。
