第17章 雲丹
「海洋生物に興味があるのか」
ソーンズの声だった。
「これが海の生き物なのかい?」
私が訊ねると、ソーンズは防護服や手袋を外しながら、ああ、と答えた。
「俺も詳しくは知らないがな。ソイツは自分の身を守るために、その棘に毒を出す生き物だ」
「ええ、毒?」
「神経毒を出すということまでは分かっている」
まるでソーンズみたいだ、とあの特殊な形をした彼の武器を思い出していると、手洗いを済ませたソーンズがようやくこちらにやって来た。これはそろそろ会話をしてくれそうだ。
「この生き物の名前は?」
「ない。または物好きなどこかの学者がつけた名前はあるだろうが」
つまり、共通語として広まっている名前はないということなのだろう。このテラには数え切れない程の生き物が存在し、そこまで重要視されないものはほとんどに固有名詞のような名前がないことが多いのだ。羽獣とか、鱗獣とか、または感染生物かどうかが分かればいいので。