第9章 忘れられた子どもたち
腕時計を見ると、時刻は午後八時五十分。
買い物するにはかなり遅い時間だなと思いながら、ぼーさんを見てなんとも言えない表情で笑う。
(ぼーさんの話で恥ずかしくなって飛び出してきた……とは言えないしなあ)
本人に言った恥ずかしさで死ねる。
なんて思いながら頬をポリポリとかいた。
「ちょっとね……へへ」
「あぶねーだろ、こんな時間に一人で」
「あははは……」
「笑い事じゃねぇよ……たく。もうレジ済ませて帰るのか?」
「う、うん……そうしようかなって」
「じゃ、送ってくわ」
「……え?」
ぼーさんはズボンのポケットから車の鍵を取りだし、輪っかのキーホルダーに指を入れてそれをクルリと回す。
「流石に一人で帰らせられねぇよ」
「で、でも……」
「いーから。レジ済ませてこいよ」
こういう時はお言葉に甘えるべきなのだろう。
あたしはぼーさんに『お言葉に甘えるね』と伝えてから会計を済ませてから、彼に荷物を持ってもらってスーパーを出た。
ぼーさんはスーパーの近くのコインパーキングに車を停めていると言い、そこまで二人で歩いていく。
「次から買い物行くときは明るい時に行けよ?」
「はーい」
ぼーさんは綾子と一緒で意外と世話焼き。
そこが好きなんだけどね……と思いながら、車の助手席にお邪魔して座らせてもらった。
彼はコインパーキングの精算をしてから運転席に座り、車を発進させる。
「案内たのみまーす」
「はーい。案内させてもらいまーす」
それにしてもだ。
車で二人っきりなんて、なかなか緊張するものだ。
(それも麻衣が変なことを言ったあとだから、余計に緊張しちゃう……)
ぼーさんと会話をするけれど、麻衣の言葉を思い出して恥ずかしくて窓の外を眺めてしまう。
「そういやあ、麻衣は元気か?」
「あ、うん。元気ありあまってるよ」
「お元気娘だからなあ」
「そうなの。お元気娘だから……あ、ここでいいよ」
アパートから数歩ある所であたしはぼーさんにそう言った。
「いや、アパートの前まで送る」
「え、でも……」
「いーから。あのアパートか?」
「あ……うん」
ぼーさんはハザードを付けてから脇に車を停める。
あたしはお礼を言って車を出ようとしたところで、ふと麻衣の言葉を思い出した。