第9章 忘れられた子どもたち
あちらは社会人であり、バンド活動で忙しかったりする。
なかなか予定が合わずに、送別会から会えずじまいで少し寂しい気持ちがあった。
「そういえばさー結衣」
「んー?」
「ぼーさんに告白しないの?」
予想していない言葉に驚いて、飲んでいた麦茶を思わず吹き出してしまった。
「な、なに!?急に!?」
「いや……しないのかなって」
綾子にも言われた言葉だ。
だが、告白なんて簡単なものじゃない……しようと思ってすぐにできるものでもない。
簡単に出来るのなら既にしている。
あたしは吹き出した麦茶を拭きながらため息を吐き出した。
「そんな簡単にできるものじゃないよ……」
「……まあ、そうなんだけどさ」
麻衣はあたしを真っ直ぐに見ていた。
その瞳はからかいなんて無くて、ただ真っ直ぐに真剣なもの。
「気持ちを伝えるなら、早めの方がいいよ。後悔する前に」
麻衣は気持ちを伝えられなかった、伝えることが出来なかった。
だからこそなのか彼女の言葉には少し重みがある。
「それにさ、ぼーさんが義理のお兄さんになるの意外と楽しみなんだけどなあ?」
「ばっ!?なにが義理のお兄さんなのさ!!」
「上手く行けばそうなるじゃん?」
ニヤリと笑う麻衣にあたしは顔を真っ赤にさせて、財布やエコバッグを掴んで玄関へと走る。
「買い物行ってくる!!」
「……明日行くって言ったのに。逃げたなあ……」
あたしは恥ずかしから逃げるように家から飛び出し、家の近くにあるスーパーに駆け込んだ。
買い物をしていくうちに恥ずかしさが徐々に収まり、平常心でなとんか買い物をする。
(麻衣が変なこというから、ボーさんと顔合わしずらくなるじゃん絶対!)
豆腐や野菜をカゴに投げ込む。
そしてレジへと向かおうとした時であった。
「あれ……結衣!」
「え」
聞き覚えのある声で呼び止められる。
あたしは驚いて振り返るとそこにはぼーさんの姿があった。
「ぼ、ぼーさん……!?」
「よお。偶然だな」
ぼーさんは本業帰りなのか少々派手な服装だった。
「ぐ、偶然だね……びっくりした。本業の帰り?」
「そー。この近くのスタジオでライブがあってな……結衣は買い物か?こんな時間に?」