第9章 忘れられた子どもたち
渋いのだろうか。
だが似合わないと思いながらも、あたしは運転席の後ろから顔をのぞかせる。
「でも、冗談じゃなく大丈夫なの?本当はまだ痛いでしょ、背中。十五針も縫ったわけだし」
「いんやー。子供のお守りで疲れてんだよ。修学旅行を引率する教師の気持ちがよくわかるわー」
「……子供ってのは誰のこと言ってんの」
「さあて、誰だろうなー?」
道中騒ぎながらもあたしたちは総合病院に到着。
中に入った時、ぼーさんが『おっ』と言葉を漏らしたのでどうしたのだろうと中を覗くとリンさんの後ろ姿。
会計の場所にいるので入院中の費用の精算なのだろう。
「よお、精算か?」
ちらりと見えたのだが、万札がかなりの数あった。
あれがナルの入院費なのかと思うと、少し驚いてしまい、思わず麻衣と顔を見合せる。
「ほんとうに退院すんだな。大丈夫なのか?」
「本人がそう言うんですから」
ナルが入院していた病室へと向かう最中、あたしはリンさんが支払っていた金額を思い浮かべていた。
入院費というのはあれだけの金額がかかるものだろうか……と驚きでいっぱい。
「ねねね、綾子、綾子。見た?入院ってあんなにかかるんだねぇ。びっくりしちゃった」
「結構な金額だったよね……」
「ああ。ナルは保険に入ってないみたいだから、全額負担なんでしょ」
「ええっ、なんで!?健康保険ぐらい入ればいいのに!」
「さあ。なんでかは知らないけど、保険がきかなきゃ治療費なんて何をやっても万の単位が近いしねぇ。あんたらのほうこそ身体には気をつけなさいよ。ビンボー人なんだから」
「ううう、うっさい!ビンボーいうな!」
「好きでビンボーでいるんじゃないやい!」
病院だから少し音量を控えめにしながら騒ぐ。
「ナル、終わりましたよ」
「──ああ」
病室に入れば、相変わらずの黒ずくめ姿のナルがいた。
退院直前まで仕事をしていたのか、手元にはファイルがありベッドにも数冊転がっている。
入院してる間くらいゆっくりしたらいいのに。
なんて何回か言ったが、完全無視されたしナルはずっと入院中仕事をしていた。
「あ、アタシ看護師さんたちに挨拶してくるからちょっと待ってて」
「じゃあ、お茶をいれてますわね」
「荷造りはすんでるのか?」
「お茶は冷たい方がいいですかしら」
「コップ用意するねぇ〜」
