第8章 呪いの家
夕方近くなった頃、彰文が帰ってきた。
彼は兄の靖高の付き添いで行っていて、帰ってきてからすぐに結衣達がいるベースへと報告にきたのである。
「──兄が一人でいると声が聞こえるんだそうです。『家族を殺せ』と。眠ると家族を殺す夢を見るんだと言ってました。あまり続くので人を刺す手応えを覚えてしまったとも。内容が内容なので人に言えなかったんです。このままでは何時か本当にぼくたちを殺してしまうんじゃないかと……」
『そんなことになる前に死んでしまおうと思ったんだ』
霊のせいなのか。
結衣はそんなふうに思いながらも、靖高が一命を取り留めたことに安堵した。
そして法生は彰文へと頭を下げた。
「発見が遅れたら一人目の被害者になるところだった。力が及ばずに申し訳ありません」
「いいえ……そちらもぼくらのせいで渋谷さんが大変なのですから」
彰文はベースから出て、母屋へと向かった。
そんな彼を見送った結衣は法生の言葉を思い出して、眉を下げてしまっていた。
『犠牲者になるところだった』
そう、最悪の場合犠牲者が出ていたのだ。
また美山邸の事件のようになったら嫌だと思いながら、畳へと視線を落とした。
「リン。ナル坊のまわりに式は残してあるな?」
「ええ」
法生は奥の部屋で眠るナルを見る。
禁呪を掛けられているせいで、彼は目覚めることがない。
「ナルに霊が近寄ったら、あんたにわかるか?」
「わかります」
「じゃあ、反対は?ナルから霊が出ていったらわかるか?」
「もちろん分かります。第一禁呪をかけてある以上霊が出ていくことはありえません」
「……ということは、だ。この家に憑いてる霊は一つじゃないってことだ」
法生の言葉に双子と綾子が目を見開かせる。
「ちょっと、ちょっと。じゃあ、なに?靖高さんは憑依されてるってわけ?」
「ほかに考えられんだろうが。家族全員に注意が必要だ。霊が一体じゃないってことは、三体やそれ以上である可能性もあるからな。──ジョン」
「ハイ」
「さっき葉月ちゃんの様子を見てどうだった」
「ハイ。ボクには分からへんかったのですけど、原さんが、これは悪質な憑きものの可能性があると言わはったので──一応簡単な除霊をして部屋を封じておきました」
「手応えは?」
「……わかりませんです」