第8章 呪いの家
「実際に神社の御神体が漂着物だったりすることもあるしな」
「へええ〜〜」
「反対に『えびす』が悪いことの前触れだったりすることもある。台風とか津波とかな。だからまあ──最初は『えびす』ってのは『海から来るもの』を神格化したもんだったんだろうな。もともとは『夷』という字を書くんだが」
法生は空中に『夷』という字を書く。
「それがのちに商売繁盛の神様になって、文字もおめでたい『恵比寿』という字を書くようになったと」
「「はーーー……」」
双子は少し混乱していた。
少々難しい話は双子には早かっただろうかと法生は苦笑いをしながらも、話を続ける。
「もともと日本じゃ『常世』という信仰があってな。常世っつーのは、ひらたくいや不老不死の国だ。それが海の彼方にあると信じられてた。『海から来るもの』ってのは、常世から来るもんだと思われてたんだな」
海から来るもの。
流れ着いた『おこぶさま』という名の流木と吹き寄せてくる霊。
洞窟と霊場、神社と塚、伝説のある岩。
海へ身を投げた男女。
(麻衣は彰文さんから説明を聞くまで、あの伝説を知らなかったはず。それなのに夢を見た。それにナルはあの時『夢の方向を示した』って言ってた)
てことは、ナルはあれを麻衣に知らせたかったのだ。
結衣にも知らせたかったが、彼女は起きていたから夢を見ていなかった。
(……麻衣の夢を見た伝説のはこの事件に関係してる?)
いくら考えても結衣は分からなかった。
取り敢えずと機材を運び、その後双子は彰文に言われて有難く大浴場へと向かった。
客もいなくて二人っきり。
広い大浴場に双子ははしゃぎながらも、夢の内容を話し合っていた。
「そういえばさ、麻衣は夢の中で神社に行って包囲されたって言ってたよね」
「うん。伝説だと海に身を投げたっていうのに……それにあたしもなんでって思ったんだよね」
「あと……『末世まで呪ってやる』だっけ?気になるよねぇ。でもよく分からないや」
「あーもう!知らせるならハッキリ教えろってのー!」
麻衣は苛立つように叫ぶ。
そんな妹に結衣は苦笑を浮かべた。
「あ、ねぇ結衣。ひょっとして今まで見た夢も全部ナルが方向を示してくれたのかな」
「……その可能性はあるね」