第8章 呪いの家
「わたしは平気ですよ」
「いんや、寝てた方がいいぜ。明日も動くことになるし、数分ぐらい仮眠でもいいからしてこいよ。ナル坊と機材ならおれが見とくからよ」
リンさんはナルへと視線を向ける。
そしてゆっくりと立ち上がると、あたしが淹れたお茶を飲み干してから机に湯呑みをおいた。
「では、少しだけ仮眠をしてきます」
「おー」
「結衣さん。貴方も眠れる時は寝ていた方がいい。明日から忙しくなるでしょうから」
「はーい。おやすみなさい、リンさん」
「おやすみなさい」
また柔らかい笑みを浮かべたリンさんはベースを出ていく。
それを見送っててからぼーさんを見ると、彼は何故か眉を寄せてあたしを見ていた。
「な、なに……?」
ぼーさんは無言であたしの隣に座る。
「リンとお前、そんなに仲良かったけ?」
「え?ああ、どうだろう……少しは仲良くなれたかなぁって感じだよ」
「名前で呼ばれてただろ」
「あたしが呼んでほしいってお願いしたんだあ〜」
ぼーさんは顎を撫でながら、何処か面白くなさげな表情を浮かべている。
どうしたんだろうと首を傾げる。
「ぼーさん?」
「まあ、おまえとリンが仲良くてもいいけどよ……おじさん、夜に男と二人でいるのは関心しねぇぞ〜」
ぼーさんは何処と無く不機嫌そう。
珍しいなと思いながらも、その発言が何処かお父さんみたいで笑ってしまう。
「ぼーさん、お父さんみたい」
「おれ、こんなに大きい娘を持った覚えはありません」
「じゃあ、お兄さんかな?ぼーさん、お父さんかお兄さんみたいだよねぇ」
でも、あたしは一度でも父親のように兄のように見たことはない。
だけど彼の接し方は、まるで父親のような兄のようなものであった。
「まあ、おれは……お前の父親や兄でもなれるよ」
「うん?」
ぼーさんはあたしの手を取る。
大きな手がすっぽりとあたしの手を覆い尽くしていて、柔らかく握られた。
「ぼ、ぼーさん……?」
「父親にでも兄でも、なんでもなれる。なってやれるよ。友人でもなんでも……。それ以外でも」
「……それ以外?」
ぼーさんの瞳は真剣だった。
そしてあたしの手をゆっくりと上げると、見せつけるように恋人握りのように握りしめてくる。
「ぼ……さん……」