第2章 人形の家
「──もう、だれもいませんわ。この家にはもう霊はいない……」
あの時、井戸は真っ黒に見えた。
だが今は普通の埋められた井戸の奥底がはっきりと見える。
それも全ては浄化されたせいなのだろうか。
「……なんで浄化したの?」
「望みがかなったからだ。……子どもを手に入れた」
「子ども……ってさっきの板?あれなんだったの?」
「見たとおりだ。人形」
「ヒトガタ?」
双子は『なんだそれ』と言いたげに首を傾げる。
見た通りと言われても、それがなんだか二人は全く知らない。
首を傾げる双子だが、一方法生は納得したかのように息を吐き出した。
「なるほど、ヒトガタねぇ……」
「人の形に切った桐の板を呪う相手に見立てるんでしょ。でも、あれ、人を呪う方法じゃないの?呪いのワラ人形の原型だもん」
綾子の言葉に、ナルは呆れたかのようにため息をつく。
「呪術にはかならず白と黒がある。白は人を助け、黒は人を害する。同じ呪法が白と黒をかねることは多い」
「だな。密教の怨敵退散の法も両方の意味に使うもんな」
「ふうん。でも、どうして人形が浄霊の役にたつの?」
「ヒトガタというのは魂の依代なんだ」
「「よりしろって?」」
双子の言葉が重なる。
この双子、一心同体なのかと言いたいぐらいに言葉が重なるものだ。
「魂が入る器。あの人形を麻衣と結衣に見立てれば、二人のかわりになる。それを傷付ければ、麻衣と結衣自身にも傷がつく……そのくらい本物に近くなるものなんだ」
ナルの言葉に、双子は青ざめる。
まさかそんな恐ろしいものとは思っていなかった。
「あの人形は富子に見立てた。女なあれを自分の子どもだと思ったんだ。子どもを手に入れたと、だから浄化した」
「よく人形が作れたな。そのために出ていったのか?」
「そう。あの女の素性を調べに」
「──で?」
「女は大島ひろ。女の家が取り壊されて建ったのが、この家だ。富子は女のひとり娘。この子はある日消えて……その半年後に池に死体が浮かんだ」
「……さらわれたのでしょうか」
リンは静かに尋ねた。
その言葉は、結衣と麻衣が井戸に落ちた時に見た夢のことの真偽を確かめようとしたのかもしれない。