第3章 辛苦
下半身をしまい一仕事終えたように椅子に身体を預ける彼を見て、その胸に抱きつく。
これだけは許して欲しい。
なにも言えずに耐える私をこの一瞬だけ慰めて……。
「なんや、甘えたやなあ。ほんまにお前は…。」
そんな私の頭を撫で、彼は優しい笑みを零す。
こんなの、嫌いになれと言われても無理なことだろう。
酷いことをした後は必ずこんな風に優しくしてくれる。
ダメだと思いながら私はそれに甘えて…彼はそれを許してくれる。
彼の沼にどこまでも落ちていってしまいそう……。
許されるのならば、愛されたい…。
だんだんと欲が溢れてくる。
その欲が口をついて言葉にしてしまわないように、出かけたそれを飲み込み離れて、ズボンを履いて副隊長室を後にした。
歯磨きをしてから部屋に戻り布団に潜ると、我慢していた涙が溢れてくる。
みんなを起こしてしまわないように、出来るだけ声を押し殺した。
「美影、あんた今度はどうしたの。」
突然声をかけられて、私の真上を見た。
2段ベッドの上はキコルちゃんだ。
「ごめん、起こしちゃったね。」
出来るだけ明るく言うと、彼女は降りてきて私の布団に潜り込んできた。
「2週間くらい前にもそうやって泣いて帰ってきた。なにがあったのよ…。」
あの時もバレていたのか…。
キコルん美影さんと、隣の2段ベッドからも声をかけられた。
同じ新人の子たちだ。
誰にも言わないから話しなさいよと言われるが、言えるはずかないと口を紡ぎ首を横に振って否定した。
何度泣き顔を見られれば気が済むのだろうかと思い、心の中で自嘲して呆れた。
「あんたがそうやって何も言わないってことは保科副隊長のことでしょ。」
驚いてキコルちゃんの顔を見ると、誰かを庇っているようにしか見えないと睨まれた。
「美影がそうやって必死に庇うのは、副隊長だけでしょ?」
どうして彼女はこんなにも勘が鋭いのか…。
「言えない…何も言えない。ごめんね、ありがとう。」
私を心配してくれる彼女たちに申し訳なさと有り難さが溢れる。
何があったのかはわからないけど、私たちは美影さんの味方だよと、微笑んでくれた。