第20章 幸福
『鐘の音が溢れている……光が溢れている……草原を吹き抜けてゆく……。空は青くて、陽射しが温かいわ……。歌が聞こえる……とても綺麗な歌が……』
子守歌を聞かされている気分だ。
白昼夢を見ている感覚に陥りそうで、私は太腿に鍵を差し込んだ。
痛みで、頭が冴えていく。
思い切り刺したため、肉まで届き抉れている。
強烈な痛みで気絶しそうだった。
痛みと快感と。
相反する二つの感覚の脳ミソが麻痺しているんじゃないかと錯覚しそうになった。
それでも痛みよりも"幸福"から与えられる「悦楽」「快感」「快楽」の方が強い。
このままでは私はまた"あの夢"を見てしまうだろう。
あの、有りえない夢を。
私の中に隠していた欲望を、私は"幸福"だと勘違いしてしまう。
それは絶対に、許してはいけない―――甘い魔法。
「同じ手に、二度もひっかかるかーーー!!!!」
抗い難い、甘い罠を仕掛けてくる"幸福"のやり方に、私の堪忍袋の緒がとうとう切れ、怒りが爆発した。
私の怒号が森中に響き渡る。
「うっ……」
「……すげ~」
七海も五条悟も私のその叫びに顔を引きつらせていた。
というか若干怯えているようにも見えた。
だけど今はそんなことを気にかけている余裕はなく。
鍵を取り出し、"幸福"に向かって投げた。
夢の中でやったように、空気を切り裂こうとしたがうまくいかず、鍵は地面に落ちる。
「クソが!!!!」
再び、鍵を手にして今度は地面に差しこもうとした時私の肩に手が置かれた。