第10章 人形
私に過去はない。
忘れてしまった記憶。
昔のことは思い出せないけど、私には未来がある。
その時、ぽんっと頭の中に何かが舞い降りた。
「私、将来の夢、決まったかも」
「え、なになに。教えて」
興味津々に聞いてくる彼女たちに私は笑って。
「こうやってこの先もずっとみんなと笑ってたい」
私がここに生きている証が未来を生きる事なら、私の将来の夢は今と変わらずにこうしてみんなと過ごす事。
どんなに怖い事があってもそれを乗り越えなくちゃ、私の本当の"明日"なんてやってこない。
そう思うから。
「美優さぁ」
「うん?」
「そんなの将来の夢って言わないんだよ」
「え?そうなの?じゃあなんて言うの?」
「「日常って言うんだよ‼」」
友人二人が私に抱き着き、そして脇をくすぐる。
笑い声が教室に響いて、他の生徒たちもクスクスと笑っていた。
このなんでもない時間が日常だなんて。
ああ、なんて幸せなんだろう。
これ以上幸せになっても、罰とか当たらないかな。
そんなことを思いながら、私は私の大切な友人二人を思い切り抱きしめた。