第31章 契約破棄
バイトから帰り夕飯を食べ終えると、父から突然ビデオ通話がかかってきた。
びっくりして思わず、蜂楽や優さんがいるリビングでそのまま通話ボタンをタップしてしまった。
「えと…どしたの?お父さん。」
『夢、悪いな。今、大丈夫か?』
「あ…うん。」
背景はきっと、勤務先の病院の医局。
手術着を着た父が、疲れた顔で映ってる。
なんだか痩せたみたいで心配だ。
「お父さん、大丈夫?ちゃんと食べてる?」
『ああ、大丈夫だ。お前は元気か?』
「私は元気。みんながいるから。」
離婚の当事者になるだけでも厄介なのに、過酷な医療現場での仕事もこなさなければならない。
産科医として一日に何人もの新しい命を取り上げている父を、今は素直にすごいと思う。
「おょ、夢ちゃんパパ?お初にお目にかかりやす♪」
「えっ、廻?びっくりした…。」
『君か。夢と付き合ってるっていう…』
「ういっす。蜂楽廻でーす♪よろしくお願い致しやす。」
『蜂楽くん、か。よろしくな。』
インカメラに割り込み、敬礼ポーズする蜂楽。
恋人がいるとは伝えたけど……
去年の蝉川とのトラブルで、父の反応には懸念があった。
ナチュラルにおちゃらけた蜂楽の軽口にドキドキしたけど、変に意識はされてないみたいだ。
父も正直、それどころじゃないんだろう。