第30章 裏切り
実技試験のデッサン課題は、落ち着いて取り組めた。
この日のために何度も練習してきたし……
自信を積み重ねてきたから。
私がここまで思えるようになったのは、
優さんとマスターのお陰に他ならない。
行きの電車でずっと見てた“一日一顔”だって……
ちゃんと私を守ってくれた。
面接試験では、“廻物展”ロゴデザイン制作の経験に興味を持ってくれた教授がいた。
『“廻物展”はボクも行かせてもらいましたよ。
蜂楽先生の“かいぶつ”の絵って、青い炎のような
イメージだけど、デザインのアクセントに黄色を使った理由を聞かせてください。』
優さんが描いた、蜂楽の中の暗色の“かいぶつ”。
それを基礎にしつつ、蜂楽の個性を小さく取り入れたロゴのカラーは……
夜空に光る星のように、青黒い面に散りばめた黄。
『“廻物”は……自分が信じる物事の楽しさを、何よりも信じている“少年”の心です。この“少年”の眼は黄色をしています。
いつまでも心は子供のままでいて欲しい、綺麗な眼のままでいて欲しい。
そんな願いを込めて、黄色を用いました。』
今日はとても……楽しかった。
親の期待という呪縛を解き、自分の力で羽ばたけた。
結果はどうなるか解らないけど、悔いはない。
都内の大学から帰りの電車に乗り込むと、2件のメッセージがスマホに届いていた。
“お疲れ!ご馳走つくって優と待ってるからね♪”
ひとつは蜂楽から。
そしてもうひとつに……緊張が走った。
“大事な話がある。今日は帰ってこられるか?”
父からだ。