第30章 裏切り
あの日から二週間。
連絡しようと思えばできたけど、私は自分の意志でそうしなかった。
とっ散らかった感情を、整理するため。
試験に向けて、切り替えるため。
また温かい心で、蜂楽と向き合うため。
今日の試験が終わったら、蜂楽の家に顔を出すつもりでいた。
懸命に支えてくれた優さんに、悪いことしてしまったから。
その時、もしあなたに逢えれば……
“ありがとう”を言うつもりだった。
この二週間、あなたを想うことで私は頑張れたから。
なのに、どうして……?
このタイミングで、逢いに来たの?
「……コレ、見たよ。」
階段に座ったまま“一日一顔”のクロッキー帳を渡してくる蜂楽。
「あ……うん。」
「すっげぇ上手だね。」
「……ありがと。」
マスターの家に置いてもらってる間、このクロッキー帳のことを忘れた日なんて一度もなかった。
「……ふふっ。」
なんだか懐かしい気持ちになる。
パラパラとページをめくると、意図しない笑みが溢れてしまう。
白い紙の上に“生きる”大好きな人。
一日一顔、その日にしかいなかった特別な蜂楽。
時にはモチベーションに、時には慰めに。
時にはヒントに、時には愛の証明に。
このルーティンは……
やっぱり私の支えになってくれた。