第30章 裏切り
駅に着いて、心臓が止まりそうになった。
着崩した制服、個性的な髪色、大好きな声。
「……夢、あいしてるからね……。」
小さく消えそうな声でも、それは聞こえた。
階段に座り、サッカーボールを足に挟んで
苦しそうに俯いて“一日一顔”のクロッキー帳を抱きしめてる。
「……そこで何してるの?」
学校なんて、とっくに始業してる時間。
二週間も学校サボって、バイト以外はマスターの家に籠もって絵を描いてた私が言えることじゃないけど。
「……っ、夢ちゃ……」
「……泣いてる。」
驚いた顔で私を見上げる蜂楽。
大きな眼を見開くと大粒の涙がポロッと溢れてきて、顔は紅潮してる。
抱えたクロッキー帳の表紙にポタッと垂れた涙。
私は蜂楽にハンカチを渡した。
「……泣いてないよ。」
「なんでバレるウソつくの?」
ハンカチを受け取って、ゴシゴシと眼を拭く。
「学校、行かないの?」
「夢ちゃんこそ。」
「私は公休。今日、第一志望校の入試だから。」
「……へぇ、そーなんだ。出発遅くないすか?」
「試験、午後からだから。そっちはサボり?」
「俺は……ココでリフティングしてたんだ。」
「へぇ、そーなんだ?私のクロッキー帳、持ちながら?」
「……半分は、合ってるもん。」