第5章 適性試験
慣れた手付きで士道をカチャカチャと拘束していく。
かつては継国本家で、まだ幼かったが癇癪を起こすたびに大の大人の男が数人がかりで押さえつけ、この拘束具で一晩反省させられたものだ。
酷かった時は山の奥に放置された。
まさか自分がこの拘束具を着ける側になるとは、人生何があるかわからないものである。
は頓珍漢な方向に感慨深くなっていた。
一瞬だけ國神錬介のところに顔を出し、異常がないことを確認してから戻ってきたが士道はまだ目覚めていなかった。
ただ待っているだけだと無駄なので、士道の目に入ってもいい書類とデータをいじりながら仕事を進めていた。
数十分ほどで男は目覚めた。
「……ちゃーん。コレちゃんの趣味?」
「おはよう士道龍聖。それは私のおさがり」
「マ?ちゃんもコレやられてたの?」
「絶妙に力が入らなくて腹が立つだろう」
拘束されている者にしかわからない感触を指摘されて、本当にのお下がりなのだと確信する。
どんな幼少期を送ったんだと士道が疑問に思うのを横目に、は手持ちのタブレットで士道龍聖関連のページを開いた。
「私とあなたは、ここに客とアンリちゃんが来るまで待機らしい。それまで暇だから進路関係の二者面談やるぞ」
「二者面初めてだわ」
「私もだ」
基本的に学校教師の言うことは無視していた士道龍聖と、すでに進路が決まっていたため進路指導教員の世話になることがなかった継国の初のマッチアップである。
「高校出たらどうする?」
「サッカー」
「大学は?」
「行かね」
「センター試験終わったけど私立も出願なしでいい?」
「いい」
「オファー来たら行きたいチームや国は?」
「ビビッときたトコ」
「OK終了。おつかれ」
「めっちゃ楽じゃん。学校のフケなくて良かったかも」
そんなわけあるか、とまともな人間がいたら突っ込んでいただろう。
サッカーができるわけでなければ芸術センスの欠片もない女だが、存外は士道にとって不快な人間ではないらしい。
数十分の駄弁りののち、士道龍聖と継国のエゴを求めて訪ねた客は、日本の至宝の肩書きを持つ男だった。