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鬼が人の心を宿す時【鬼滅の刃】*短編集(ほぼ鬼)

第2章 The Light in the Abyssー前編【猗窩座】


車内には、洋楽のロック。わたしも好きな曲だ。

まるで、閉ざされた感情の扉を叩くかのように、荒削りで重苦しいサウンドで、これまでに感じた猗窩座さんの印象と重なる。


「今回の雑誌のコンセプトは、『ART and BODY』という特集で、『破壊と再生』だ」

静寂を破るように、彼の声が聞こえた。

「俺の過去の傷や、心にある痛みを、破壊として表現する。そして、それを君が破壊の後から再生を描く。……全て、君に任せる」

彼の言葉に、わたしは驚いた。これまでの仕事は、事前に打ち合わせがあり、クライアントの意図を汲んでデザインを考えていたからだ。

「……でも、クライアントの意向が…」

「それは俺が話をつける。君は、君の作りたいものを作ればいい」

彼はそう言うと、ハンドルの上にある手を、わたしの手に少しだけ近づけた。

「俺が表現したい俺自身の内側を、一番に表現してくれるから指名したんだ。だから問題ない」

胸の内側から暖かいものが込み上げてくる。

わたしの仕事に対する、いや、わたしの作品に対する史上最高の言葉に、”アーティスト”としての敬意を向けられた気がした。

「……ありがとうございます。期待に応えられるよう、精一杯頑張ります」

わたしの言葉に、返事はなかった。
しかし、猗窩座さんの横顔は、満足げに微笑んでいるように見えた。




車が、薄暗い倉庫街に止まった。
ここが今回の撮影の現場だと聞かされる。

錆びた鉄骨とひび割れたコンクリートが剥き出しになった、廃墟のような場所。
今回の撮影場所は、彼の過去の傷を象徴する”破壊”のパートだ。

早速準備に入る。
今回はボディーペイントだけでなく、特殊メイクも必要だ。道具の多さに、思わずため息が出そうになる。

「……手伝おうか」

彼は、そう言ってわたしの横に立つ。
トランクからキャリーケースを降ろしてもらってからは、そこはわたしのだけ領域。

「いえ、大丈夫です。ここはわたしの仕事ですから」

そう答えると、彼は何も言わずに、わたしの隣でただ立っている。その無言の気遣いが、わたしの緊張を少しだけ和らげてくれた。
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