【WIND BREAKER】愛なんて知らなかった(R18)
第7章 ※本当の私
「ストーップ!楡井…沙良は初めて見るだろうから、まだ言わないでちょうだい。サプライズにしたいの。」
椿さんはウインクしてそう言った。
「あっ…はいっ…すみません。」
「ふふっ、いいのいいの。
沙良、こっちの部屋に来てちょうだい。色々準備万端だから。アンタ達はもう食事しててくれて構わないわ。そろそろ歌が始まるわよ。」
『ぁ…はいっ…』
一人で椿さんについて行くと、楽屋…?なのか、広い部屋の奥に小さな部屋があり、そこには晴竜君がいた。
「沙良ちゃん、いらっしゃい。
ごめんね…ポトスでやれれば良かったんだけど、ヘアアイロンとか大きい鏡とか、着替えができるスペースとかも考えたら、こっちが都合良くて。」
机の上には髪のセットに使うアイロンやピン、リボン、メイクセットなどが並んでいる。
『凄い…これ、お店の…?』
「いや、俺の私物。」
『晴竜さんの…私物っ……』
「俺さ、ファッションとかメイクとか好きで、自分なりに動画とか見て勉強してるんだ。将来はそっちの道に進みたいなー、って考えてて…」
晴竜さんはそう言うと、ヘアアイロンのコンセントを差した。
『…将来…凄いですね…』
「俺らもう3年だからさ、嫌でもそういうの、考えなきゃいけない年じゃん?まぁ、沙良ちゃんみたいに優秀な子達はもう既に考えてそうだよね、将来の事。」
座って、と自分が座る椅子の前に案内してくれ、ポスンと座った。
『全然考えてないです…毎日を生きるのに精一杯で…』
ふふっ、何それ大げさ、勉強大変なの?と晴竜さんは笑った。
「そりゃあ大変よねぇ、今日テストだったんでしょ?お疲れ様。私は一旦ステージの方に戻って、明日の服持ってくるわね。」
椿さんが部屋を出ていった。
胸が痛い…
3年生とはもう、来年はこんな風に一緒にいられないんだ。
遠くの大学に行ったり、遠くの就職先だったり…
海外に行く人だっているのかもしれない…
こんな日常はもう、やってこないんだ…
「…ちゃん…沙良ちゃん…?」
『はいっ……』
「大丈夫?」
『ごめんなさい、大丈夫です。
晴竜さん、今日は…よろしくお願いします。』
私の言葉に少し驚きながらも、ふふっ、と笑うと晴竜さんはスマホを取り出し、電話をかけた。