第2章 小豆娘
…後にしよう。
ごちゃごちゃ考えていたらせっかくの飯が冷めてしまう。
俺の前にはにすすめられたかつとじ丼。
の前には親子丼が置かれた。
食欲をそそるいい匂いだ。
一口食べてみると、出汁がしっかりと効いていて、豚カツも肉厚で食べ応えがありとても美味い。
「どうですか?」
食べながら話せないので、“美味い“と一回頷いて見せる。
「美味しい…ってこと?良かった!」
伝わったようで、一安心だ。
が食べているのは親子丼だそうだ。
「こっちも美味しいですよ。食べてみますか?」
一口味見をさせてくれるようだ。
では俺の分も分けてやろうと、丼をの方へずずっとずらす。
しかし、はなぜかこちらへ丼を寄越さない。
俺の勘違いかと思い、ずらした丼を引っ込めようとした、その時…
「はい冨岡さん、どうぞー」
何を思ったか、は丼ではなく、箸ですくった親子丼を俺の口元へ運ぼうとしていた。
…これがよく見る“あーん“というやつなのだろう。
俺にだって分かるぞ。
食べさせられるのか、俺が。
こういうのは、もっと親しい間柄の者同士がやるものだと思っていたのだが…
もしや、俺が知らないだけで、知り合いになれば皆遠慮なく誰でもやるものなのだろうか。
そうならば、これを俺が遠慮するのは、とても失礼な事のような気がしてくる。
ちらっとを見てみれば、箸の親子丼が机に落っこちないように手皿を作り、にこにこと俺が食べるのを待っていた。
俺は周りが少々気になったが、は全く気にしていないよだ。
俺が気にし過ぎているのか。
ずっと待たせているのも申し訳ない。
では…
「いただこう」
「はい!あーんしてくださいね!」
心臓が跳ね上がるような台詞と共に親子丼が近づいて来る。
どきどきしながらぎこちなく口を開け、それをぱくっと口に入れた。
「…。美味い」
「美味しいですよね!」
美味い飯の味を共有出来たからか、がとても喜んでいるように見える。
それを見て、俺も嬉しく思った。
ここの女給達のやたらと見守るような視線を感じ、少々恥ずかしさは感じるが…
目の前の、楽しそうなを見ていると、そんなのどうでもよくなっていた。