第8章 恋仲になりまして
〈光秀side〉
「光秀さんが…好きです」
その一言を聞いたとき、ほんのわずかに
——思考が止まった。
意外だった。
この娘は、もっと臆病で、もっと慎重だと思っていた。
こちらが近づけば逃げるくせに、離れれば寂しそうな顔をする。
面倒だが、嫌いではなかった。
いや、むしろ…
「そうか」
感情をそのまま返すなど、柄ではない。
試すように、値踏みするように、相手の出方を見る。
いつものことだ。
俺を見つめる娘の目は、逃げていなかった。
緊張で震えてはいたが、目を逸らさなかった。
——本気か。
ならば。
「……なら、なるか?」
「え?」
「恋仲だ。嫌か?」
断る理由はなかった。
「いいえ!」
食い気味に返された声に、わずかに口元が緩みそうになるのを抑える。
「なら、決まりだな」
それで十分だった。
言葉など、多くはいらない。
恋仲になった。
それで、この関係は成立した。
——そう思っていた。
「あ、あの!」
呼び止められて振り向くと、先ほどとは別の緊張を纏った顔。
「なんだ?」
「このことは、誰にも言わないでください。…二人だけの秘密にして欲しいです」
……なるほど。
面倒な条件をつける。
だが、それも悪くない。
隠したいほど、大事にしたいということか。
それとも——
奪われるのが怖いのか。
まあ、どちらでも構わない。
「相分かった」
深くは聞かない。
聞かぬ方が、面白いからな。
そうして、その場を後にした。